新型コロナにつられて、くろきかずや【感染領域】を読んだ。2018年の「このミス大賞」優秀賞に輝く、美術系ライター菅谷淳夫と広告会社勤務の那藤功一の二人ユニットの作品だ。題材のタイムリーさ、テンポの良さでほぼ一気読みした。登場人物のキャラも立っているし、完全文化系の二人の作者が文献を読み込んでやれDNAやらRNAやらヌクレチドやらの語彙をバカバカ頻発し、しかも謎解きあり、ちょっとしたアクションあり、世界を牛耳ようと企む悪徳企業が影でうごめく、まあ詰め込み過ぎかも知れないスピードエンタメだ。
帝都大学で植物感染学を研究している安藤は天才と呼ばれた研究者だったが、ある理由でそれ以上の地位が望めない万年助教をしている。そんな安藤のところに別れた後輩で、若くしてすでに農林水産省植物防疫課の課長をしているキレキレの里中が仕事を頼みに来た。九州でかつて無いトマトの疫病が発生した。その原因と対処を調査研究してほしいということだ。別れた女と接触したくない安藤は断ろうとしたが、安藤を拾ってくれた上司の教授の命令で、いろいろな意味で凄腕を発揮する里中と九州のトマト農場の調査におもむいた。
トマトはその果実だけでなく葉・茎・根までもが赤変矮化していた。本来果実だけで進行する葉緑素(クロロフィル)のリコピンへの置換がトマトの全部位で急速に進行していた。世界一の天才バイオハッカーを自認するゲイのモモちゃん(これが実際あとでほんとにすごいのがわかる)の助けを借りて、分析すると、その原因は全く新種のウィルスによるものであることが判明する。スレッドウィルスと命名されたこのウィルスが広がれば日本のトマトは全滅する。九州の農場の病変トマトは全て焼却処分したにもかかわらず、考えられない早さで四国中国関西と東へ北へ伝播しているように見える。
そんな時に、安藤と大学の同期で今は国内最大の種苗メーカー、クワバに勤める倉内が、安藤との翌日のミーティングを約束した夜に変死する。倉内は安藤に何か相談事があったようだ。その倉内が研究していたのが、絶対熟すことの無い新種のトマト、カグラ(kagla)だ。カグラはその5つのローマ字で表される5つの品種を交配させて偶然できたのだ。カグラの身は半年経っても赤くなることは無くみずみずしいままだった。安藤はクワバの社長から倉内がしていたその研究を引き継ぐことを依頼される。
スレッドウィスルに犯された病変トマトの種は全てクワバから供給されている事がわかり、その背後に世界的なアグリ・コングロマリットの影が忍び寄る。
そして、スレッドウィスルとカグラの両方の研究を進める安藤にも恐るべき魔手が迫る。
スレッドウィスルが日本いや世界に蔓延してしまえば、世界からトマトという種が絶滅するだけでは無い。スレッドウィルスが変異して他の植物にも感染すれば、食物連鎖の起点にある世界中の植物という植物が絶滅し、生きとし生けるものは滅びることとなる。
このハイスピード・バイオサスペンスが素人?の二人が書いたとは思えないぐらいの出来映えであった。半年ぐらい前に読んだ藤井太洋【Gene Mapper】を思いだした。
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